おはなし1・仏の道のはじまり

 一所懸命(いっしょけんめい)に修行したスメーダはすぐに神通力(じんつうりき)を身につけました。 ある日、ラマンという町の上を飛んでいると、人々が大喜びで、さわいでいるのが見えました。
「ディーパンカラ(然燈仏・ねんとうぶつ)という仏様(ほとけさま)が、お弟子(でし)の方々と、この都においでになるのです。
みんな、うれしくて町を飾(かざ)ったり、食べ物を用意したりしてはたらいているのです。」
 スメーダは自分もぜひ、仏様のために、はたらきたいと思い、洪水(こうずい)でこわれた道を直(なお)す事にしました。 神通力をつかえば、簡単(かんたん)に直す事ができますが、スメーダは自分の手で直そうと思いました。スメーダは一所懸命にはたらきましたが、道が直る前に仏様たちがやってきました。

 「このままでは仏様たちが泥(どろ)でよごれてしまう。そうだ、わたしのからだを橋のようにしてわたしの背中を渡ってもらおう」
スメーダはむすんでいた髪(かみ)をほどいて道にしき、からだを橋のように伸ばして泥でよごれたところにうつぶせになりました。
 「わたしはいつの日にか、あの仏様のように立派(りっぱ)なものになり、多くの人々を迷(まよ)いの海から救い出す事を誓(ちか)おう。わたしは、いつの日にか、必ずそれを成し遂(と)げよう。」

 ゆっくりと進んできた仏様たちはスメーダの前で立ち止まりました。
仏様はすぐにすべてを見通(みとお)して、豊かなほほえみを浮(う)かべて、こう予言(よげん)しました。
「スメーダはいま、身を捨てて仏(ほとけ)になる誓いをたてました。遠い未来にスメーダはゴーダマ・シッダールタという名の尊(とうと)い仏になるでしょう」
 仏様たちはスメーダを拝(おが)み山ほどの花をささげてたちさりました。みんなが立ち去ったあと、スメーダはゆっくりと身を起(お)こしました。すると、一万にもおよぶ天人天女(てんにんてんにょ)たちが目の前にやってきた喜びの声をかけました。
「あなたは偉大(いだい)な仏様になることが定められたのです。仏様のしるしが、いま、あなたに現れました。」

 このときからスメーダは菩薩(ぼさつ)になる道を歩み始めたのでした。 菩薩は、天人天女たちの、温(あたた)かいまなざしと、励(はげ)ましに感謝(かんしゃ)の祈(いの)りをささげると、ふたたび、ヒマラヤの修行の地に帰っていきました。